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一般の皆さまへ腎不全患者の “いのちのツール”

ダイアライザ【人工腎臓】

腎臓の機能が低下した疾患である「腎不全」の治療方法のひとつとして「人工透析」があります。
「ダイアライザ(人工腎臓)」は、人工透析という治療に欠かせない医療機器の1つです。ダイアライザは、腎臓の代わりに血液を浄化する機能を果たします。

01腎臓は、何を
しているんだろう?

腎臓は血液を「ろ過」して過剰な水分や体で不要となった老廃物を尿として体外に排出することによって、血液を浄化するなどの役割を担っています。
腎臓は握りこぶしほどの大きさで、腰の上あたりに左右1ずつあります。体内の血液は腎臓を通ってろ過されます。腎臓でつくられた尿は膀胱(ぼうこう)に送られて、体外に排泄されます。

では、腎臓の中はどのような構造になっているのでしょうか?

腎臓は、血液ろ過を行う「糸球体」とそれを包みこむ「ボーマン嚢(のう)」と「尿細管」からなる「ネフロン」と呼ばれる組織によって構成されています。糸球体でろ過された血液中の老廃物などは、ボーマン嚢で受け止められ、尿細管へと流れていきます。また、尿細管では水分や身体に必要な成分を再吸収します。
この腎臓の基本的な機能単位であるネフロンは、腎臓ひとつあたりに約100万個、左右で200万個程度あるといわれています。

02人工透析とは

慢性腎不全になると、腎臓の機能が衰え、血液中の老廃物などを体外に排出できなくなり、放置しておくと数日から数ヶ月で死にいたる危険な状態におちいる可能性があります。
したがって、血液を別の方法でろ過し、毒素をとり除かなければなりません。それが「人工透析」なのです。

03ダイアライザの役割

ダイアライザは、図のように患者さんの血液を血液ポンプというポンプで流し込み、処理した血液をふたたび患者さんの身体にもどすというように使われます。
ダイアライザに流された血液は、ダイアライザ内部の半透膜※1でできたストロー状の細い管(中空糸)の内側を流れます。血液はこの半透膜を介して外側に流れる透析液※2と接触します。半透膜には小さな孔(あな)が空いており、血液中の過剰な水分や老廃物が透析液側に透過していきます。同時に血液中に不足している透析液中の電解質などの成分が血液側に透過して適切な量に是正されます。半透膜の孔は、血液中から失われてはならない血球やアルブミンなどの蛋白質が透過して失われないような大きさになっています。

このようにしてダイアライザに送られた血液から過剰な水分や老廃物が取り除かれます。 人工透析という治療では、一般的にこのように血液を浄化する治療を1回あたりおよそ3~5時間、1週間あたり3回行われています。

ダイアライザは、このようなしくみで腎臓の機能の1つである血液を浄化する機能を代替する医療機器なのです。

※1 半透膜:一定の大きさ以下の分子やイオンのみを通す膜のこと。半透膜の一種であるセロハンは、塩水中の水の分子は通すが、大きな塩の分子は通しません。

※2 透析液:血液に近い濃度の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)やブドウ糖などを含んだ水溶液。人工透析1回あたり約120~150リットル用いられます。

04性能を決める
「中空糸」づくり

ダイアライザのケースの中には、写真の通り、中空糸がびっしりと詰まっています。その中空糸の数はおよそ1万本。
中空糸の大きさは、外直径約0.3mm(約300μm)、血液が流れる内側流路の直径は約0.2mm(200μm)となっており、厚みはわずか約0.015~0.04mm(15~45μm)とたいへん小さなものです。

中空糸が有する孔の大きさや数は、ダイアライザの性能を決定するとくに重要な要素です。患者さんの症状によって、取り除くべき老廃物等の種類や量が異なるため、孔の大きさや数が異なる中空糸を取りそろえておく必用があります。
孔が大きいほど、血液を浄化できる速度がはやくなりますが、血液成分の変化が急激すぎると、患者さんの身体が追従できない場合があります。このため、患者さんの病状や体格などにあわわせたダイアライザの性能を選択できるような準備が必用です。

孔の大きさをコントロールする「中空糸」づくりの技術が、ダイアライザの性能を左右する重要なポイントとなります。

05「血液凝固」との戦い

ダイアライザの性能を決めるもう一つの重要なポイントがあります。それは「血液の凝固」を抑制することです。
血液には、異物に触れると凝固する(固まる)という性質があります。血液の凝固は、怪我で傷を負って出血した場合に、失血を防ぐためのしくみです。

ところが本来生命維持のためになくてはならないこの血液の性質が、ダイアライザにとっては大きな問題となってしまいます。

血液の凝固反応を防ぐために透析を行う患者さんの血液には「抗凝固剤」と呼ばれる薬を投与します。

血管内の壁の損傷によって、血栓という血の塊ができるように、身体の外に出た血液が人工物と接触したり、凹凸の大きな表面に接触して停滞したりすると、そこで血液は凝固しやすくなる性質があります。

このため、ダイアライザに流れる血液が接触する中空糸の内腔表面や下図にあるダイアライザ入口や出口で中空糸に分かれて流れる部分の「中空糸支持体」の血液接触表面は、可能なかぎり凹凸が少ない表面に加工することが重要となります。

06より患者さんに優しい
ダイアライザへ

ダイアライザは、これまで絶えざる進化を遂げてきました。長さ30cm程度のダイアライザには高精度かつ繊細な、目に見えない膨大な技術が詰まっています。
しかしながら、ダイアライザは患者さんの身体や血液とは通常は接触することのない人工物という側面もあります。
このことから、通常では起こらない血液凝固以外のさまざまな反応が起こることも確認されています。
このような反応を限りなく発生しないようにするため、接触する表面積の大きな中空糸の材料や表面の構造など、様々な角度から研究開発が進められています。
より患者さんに優しい医療機器を目指して、ダイアライザの進化は続きます。